公表制度についての整理

公表についての加筆版)

1. 公表の法的性質
行政処分ではない。
公表の相手方は一般住民であって、氏名等を公表される者を直接の相手方としてなされるものではなく、またその権利を制限し、義務を課するものではないことから、行政手続法に規定する「特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分」つまり、不利益処分にもあたらない。

○公表はそれ自体によって私人の権利・義務に変動を生じせしめるものではない。→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

○公表それ自体は、単に違反事実または違反者の氏名を公表するという行為にすぎず、したがって、なんら公権力の発動に該当するものではなく、相手方に直接の法的効果を生じさせるものではない。→村上武則編「基本行政法」

2. 公表の機能
「制裁的公表」と「情報提供」の二つに分けられる。

○公表とは、一般には単に広く事実を知らせることである。それは基本的には単なる惰報提供(高額納税者名の公表-所税233条、財政状況の公表-憲91条、財46条、自治243条の3、一般国務・外交関係の公表-憲72条、内閣5条、被疑者名の公表-法律に根拠なし)のほかに、制裁としての機能を有するものがある。→阿部泰隆「行政の法システム(上)(下)
〔新版〕」


○違反の公表には、市民への情報提供と、違法不当な行為をくりかえす業者へのペナルティという二つの目的がある。したがって、違反の公表をめぐる問題を考えるにあたっても、市民の知る権利の保障と氏名を公表される者の権利保護という二つの側面から問題をとらえる必要があろう。→畠山武道「課徴金・反則金・違反の公表(行政法の争点新版)」

3. 制裁的公表と法的根拠
制裁的公表は、行政指導などに従わない者に対して氏名などを公表することにより当該行政指導などの実効性を確保するものであるが、公表そのものは行政処分ではないため、権力行政留保説などの観点に立てば法的根拠は不要である。しかし、制裁的公表が、その不利益性によって実効性を確保しようとするものであることから、原則的には、法的根拠が必
要と考えられるようになってきている。

○公表とは、義務の不履行あるいは行政指導に対する不服従があった場合に、その事実を一般に公表する、というものを指す。その目的は、公表によって世間の注目を集め、心理的に行政指導に服させ、または予めかかる制度を置いておくことによって行政指導の実効性を図ろうとするものである。→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

○公表は間接強制の一態様と位置づけることができる。そのように考えるならば、これを実施するには、法律の根拠が必要であることになろう。→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

○本来、公表は国民への情報提供をなすものであって、法令の根拠もさして問題とはされなかった。しかし、公表が、そのような単なる情報提供機能をこえて、心理的圧追による義務履行の確保という目的を含んできたときには、事実上の侵害的行為と同様の機能を果たすことになる。→村上武則編「基本行政法」

4. 情報提供と法的根拠
単に住民に対して情報を提供する事実行為であって、法的根拠は不要である。

○本件各報告の公表は、現行法上、これを許容し、又は命ずる規定が見あたらないものの、関係者に対し、行政上の制裁等、法律上の不利益を課すことを予定したものでなく、これをするについて、明示の法的根拠を必要としない(O-157東京控訴審判決)。

○その趣旨が、公衆に対する情報の提供であると、プライバシーの侵害がない限り、特段の法律の根拠なくすることが認められる。→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

5. 手続的保障
「制裁的公表」は、行政処分ではないが、その不利益性に着目するならば、行政手続法にいう行政指導不服従に対する不利益取扱いに該当するとも考えられるため手続的保障が必要である。
「情報提供(とりわけ緊急性がある場合など)」の場合は、必要ではないと考えられる。

○伝統的な侵害留保理論にいう「自由と財産への侵害」には「行政による情報操作」は含まれていなかったので、同理論によれば、氏名公表に法律の根拠は必要ない。しかし、公表のもたらす実際のダメージ及びその基底にある「行政側の制裁意図」に着目すれば、法律の留保理論を制裁的氏名公表に拡大する必要性が明確となる→大橋洋一「行政法:現代行政過程論-第2版-」

○一旦信用の失墜を生じると回復は困難であるから、公表の手続を慎重に法定することが望ましい。→高田敏編著「行政法」

○公表は情報開示の一環であり、行政手続法上の不利益処分ではないので、弁明等の事前手続は適用されない。→原田尚彦「行政法要論全訂第四版増補版」

○法律の根拠や事前手続の点では、情報提供機能に着目すると不要であるが、その侵害機能に着目すれぱ、まったく不要と割り切るのも問題で、集団食中毒の原因食材の公表のように人命にかかわるものや緊急を要するものを除いて、法律や条例にルールを決め、事前手続をふまえて慎重に行う方が適切という意見にも理由がある→阿部泰隆「行政の法システム(上)(下)〔新版〕」

6. 取消訴訟
公表自体の取消訴訟は、公表に処分性が認められないことから困難と考えられるが、認められるとする説もある。なお、この点については、行政事件訴訟法の改正によって原告適格の拡大は行われたが、処分性については、従前通りとなったことから、変化はないと考えられる。

○名誉毅損あるいは営業権侵害を理由として公表の取消訴訟が認められるかどうかが問題となるが、裁判例には、取消訴訟の対象とならないとしたものがみられる(最判昭38・6・4民集17巻5号670頁)。→村上武則編「基本行政法」

○公表行為自体の取消訴訟も提起しうるとも考えられる。→高田敏編著「行政法」

○公表に関して、これを間接強制の一つとして位置づけるならぱ、公表に対する救済手段として、公表の取消訴訟の提起が認められる(また、公表を差し止めるという意味で、公表に先行する勧告の取消訴訟も考えられる。)→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

○ただ、公表制度特有の問題として、それが、公表を通じて世人に訴えるというものであるので、事後の救済である取消訴訟は必ずしも効果的な手段ではない、ということがあげられる。→塩野宏「行政法 1〔第二版増補〕」

○最判昭38・6・4(栃木県知事事件)
社会保険医療担当者監査要綱に基づき都道府県知事が保険医に対してした戒告の措置は、行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分に当たらない。

7. 国家賠償請求訴訟・損害賠償請求
公表が違法であれば、情報提供を目的としたものであっても国家賠償請求訴訟や民事上の損害賠償請求訴訟が可能であると考えられるし、現に認められている。ただし、名誉毀損については、示された事実が真実であると証明されれば、不法行為が成立しないと考えられる(最判昭和41・6・23)。
なお、公表が適法であった場合の損失補償の請求も考えられるが、例えば欠陥商品の公表を例にすれば、公表が適法であるということは欠陥商品であることが前提であるから、この場合は、欠陥商品の製造者などの事業者に帰責事由があり、また、安全の確保という消極目的のために事業者に課されている内在的制約であって補償が必要とされる特別な犠牲とは言えないと考えられる。

○本件各報告の公表は、なんらの制限を受けないものでもなく、目的、方法、生じた結果の諸点から、是認できるものであることを要し、これにより生じた不利益につき、注意義務に違反するところがあれば、国家賠償法1条1項に基づく責任が生じる(O-157東京控訴審判決


○違法な公表によって損害をこうむった場合には、国家賠償請求訴訟が可能であると解される。裁判例にも、公表が名誉毅損になるとして損害賠償を命じた事例がある(東京地判昭54・3・12判時919号23頁)。→村上武則編「基本行政法」

○むろん違法な公表によって名誉、信用等を段損された者は、国家賠償を請求することができる(合成洗剤不足の原因についての地方公共団体の調査が不当な推測によるものであり、その公表が洗剤メーカーの名誉致損となるとして損害賠償を命じた事例があった(東京地判昭和54・3・12判時919号23頁)が、損害賠償だけでは救済が十分とはいえない。→原田尚彦「行政法要論全訂第四版増補版」

○誤った公表は損害賠償責任を生ずる(洗剤パニック事件、東京地判昭和54・3・12判時919号23頁)。軽微な事案(少々のキセルなど)を公表するなどは比例原則に違反する→阿部泰隆「行政の法システム(上)(下)〔新版〕」

○誤った公表に対する救済について、東京地裁昭和54・3・12判決(判時919号23頁は、名誉鍛損を根拠とする損害賠償を認め(五十嵐清・人楮権論292頁以下参照)、東京高裁昭和54・2・22判決(判時925号68頁)は、国家賠償が可能なことを認めている。→畠山武道「課徴金・反則金・違反の公表(行政法の争点新版)」

○最判昭和41・6・23
名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。

○東京地判昭54・3・12(洗剤パニック事件)
東京都物価局が家庭用合成洗剤の不足の原因についての報告書を公表したことはメーカーに対する名誉毀損に当たり、損害賠償が認められるが、名誉回復の適当な措置としての謝罪広告をなすべき義務はない。

○東京高裁昭和54・2・22
消費者保護基本法に基づき神戸市が設置した神戸市生活情報センター所長が、同市センター条例に基づき市政記者クラブにおいて情報提供を行うことは国家賠償法一条一項の「公権力の行使」に当たる。

○O-157東京控訴審判決
関係者に対し、行政上の制裁等、法律上の不利益を課すことを予定したものでない情報提供としての公表は、現行法上、これを許容し、又は命ずる規定が見あたらないものの、これをするについて、明示の法的根拠を必要としない。
内容が正確な公表であっても、目的、方法、生じた結果の諸点から、是認できるものであることを要し、本件は公表方法に違法があるので、国家賠償法1条1項に基づく責任が生じる。
厚生大臣が、記者会見に際し、一般消費者及び食品関係者に『何について』注意を喚起し、これに基づき『どのような行動』を期待し、『食中毒の拡大、再発の防止を図る』目的を達しようとしたのかについて、所管する行政庁としての判断及び意見を明示したと認めることはできない。
かえって、厚生大臣は、中間報告においては、貝割れ大根を原因食材と断定するに至らないにもかかわらず、記者会見を通じ、前記のような中間報告の唆昧な内容をそのまま公表し、かえって貝割れ大根が原因食材であると疑われているとの誤解を広く生じさせ、これにより、貝割れ大根そのものについて、O-157による汚染の疑いという、食品にとっては致命的な市場における評価の毅損を招き、全国の小売店が貝割れ大根を店頭から撤去し、注文を撤回するに至らせたと認められる」。
公表に伴う貝割れ大根の生産および販売等に対する悪影響は容易に予測できたにもかかわらず、「上記方法によりされた中間報告の公表は、違法であり、被控訴人は、国家賠償法1条1項に基づく責任を免れない」。

8. 民事訴訟(名誉回復)
公表が違法であれば、名誉回復を求める民事訴訟により謝罪広告を求められることも考えられる。

○違法な公表により毀損された名誉の回復の方法としては訂正広告を掲載するとを民事訴訟によって求めることも考えられる。→村上武則編「基本行政法」


10.補足(問題点)
制裁的公表制度には、他の実効性確保手段(代執行、行政罰など)と異なり、次のような問題点がある。

○この手段の実効性は公表される者の姿勢にかかっている。法令違反の事実を公表されることを意に介さない者に対しては全く効果がないからである。→高田敏編著「行政法」

○公表は実効性があるものであるが、反面、厳しい制裁になりすぎるといった危惧や、公表を誤った場合の賠償請求訴訟を恐れて、実際にはそれほど活用されず、せいぜいは脅しに使うだけで、床の間に飾っておくだけの張り子の虎の感がないではない。→阿部泰隆「行政の法システム(上)(下)〔新版〕」

○氏名公表は社会的制裁措置として大きな威カをもっため、その利用は比例原則により重大な違反事件に限定される(要件でこうした趣旨を明記するものも少なくない)。また、公務員は事なかれ主義に支配されて、公表に消極的な態度をとることが経験的に知られるところである。そこで、公表事例に該当することを判定する第三者機関を関与させることで、判定に及び腰である公務員をサポートする仕組みが重要になる。こうした補完措置を講じなければ、現在の行政土壌では氏名公表も伝家の宝刀にとどまるであろう。→大橋洋一「行政法:現代行政過程論-第2版.-」

○公表制度が今日では一般的な制度と呼べるほど広く規定されてきた点、誤った公表は莫大な損害をもたらしうる点に着目すると、今後は、告知、聴聞、理由提示といった事前手続整備のほか、公表事実が問違っていた場合の事後訂正(及びその公表)義務などの手続をルール化すべきであろう。→大橋洋一「行政法:現代行政過程論-第2版-」

○条例により一般的に課せられた義務づけに違反したがゆえになされる勧告に従わないような場合においてはじめて不遵守の公表ができると解するのが、妥当だろう。行政の指示に従わないというだけで公表の対象にしうると考えるのは、きわめて権威主義的であり、民主性に欠ける理解である。→北村喜宣「自治体環境行政法第二版」



2002年度以降コピーを取って、あるいは印刷して読んだ論文等


寺島俊穂 戦後日本の民主主義思想--市民政治理論の形成 / 関西大学法学論集. 54(5) [2005.2]

一 問題の所在
二 丸山眞男の民主主義論
 民主主義の精神構造
 民主主義永久革命論
 民主化と市民政治
三 久野収の市民的抵抗論
 市民的抵抗の精神
 平和主義の構想力
四 松下圭一の市民参加論
 市民的共和の精神
 分節民主主義の思想
五 結語

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この記事へのコメント

2020年01月06日 11:07
こんにちは。

氏名公表を考えてみようと思っていますが、私のような初心者でも、分かりやすく、頭の整理ができます。助かりました。

このページ以外にも参考になるのが記事があろうかと思います。勉強させていただきます。

よろしくお願いします。

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